フランス近現代思想研究会

研究会記録用HP。慶應三田キャンパスを拠点に週一回の読書会を始め、学会プレ発表、翻訳のチェックなどを行っています。

【書評】Jean-Michel Salanskis, Sur des objections à Levinas

Jean-Michel Salanskis, Sur des objections à Levinas, in: J.-M. Salanskis, L’humanité de l’homme. Levinas vivant II, Paris: Klincksieck, 2011.(邦訳「レヴィナスに対する諸反論について」、小手川正二郎訳、『現代思想』(総特集レヴィナス)、青土社、2012年所収)

 レヴィナスについての従来の読解と反論(デリダ、リクール、フェミニズムの立場等)に共通する傾向と問題をあぶり出し、そうした読解とは一線を画する形でレヴィナス再読を促す画期的な論考。著者サランスキは、数学の哲学や論理学を専門としながら、ハイデガー、レヴィナス、デリダについての透徹した著書を発表し続けてきた(Heidegger, le mal et la science, Paris: Klincksieck, 2009; Derrida, Paris: les Belles Lettres, 2010)。本論では、レヴィナスの記述(「絶対的に他なるものは他人である」、「女性は他者である」)を存在者についての本質記述とみなす根強い見方が、レヴィナスによる視点の転換を根本的に捉え損ねている点で批判され、レヴィナスが語っていることを「それが理解されたがっている通りに」理解すること、すなわち存在者ではなくその意味がいかなる体験のもと、いかなる繋がりをもって経験されているかを問う「現象学的」記述として理解することが提唱されている。レヴィナスを読んできた人、これから読む人すべてに一読してもらいたい論考。(S. K.)